第1話・冒険の始まり
ある日の朝の出来事。
「愛樂(あいら)お嬢様!お待ちください!」
「もうこんな生活は嫌ですわ!私、外に出たいんですの!それでは!」
とある街の邸宅に住むお嬢様、愛樂は自室のドアを閉めて、なんと窓から飛び降りた!
ポフッ
「ふう、夜中に地面にクッションを用意しておいて正解でしたわ♪さてと!」
愛樂は邸宅の近くにある森へと入っていった。まだ朝なので、涼しいくらいだ。
「クマとか出てきませんわよね……?う、早く抜けてしまいましょう」
数分歩いて、今度は平野に出た。
〈ラカウ平野〉
看板にはそう書かれていた。
「うーん、こんなに広いと迷いますわね……そうですわ、地図を出しましょう。家の方角がこちらですから……あら」
このまま、まっすぐに進めばソフィアの街に着くようだ。
「ふむ。まずはソフィアに行き、旅の情報でも集めましょうかしら」
その時だった!
ドンッ!
「きゃっ」
愛樂は地面に叩きつけられた。
「いったぁ……ひんっ!?」
顔を上げると、目の前には青い毛皮の巨大な生き物が迫ってきていた。
(もう駄目ですのね……ああ、こんなことになるのなら家を出なければ良かったのかもしれませんわね……)
恐怖で、愛樂の身体は動けなくなっていた。
仕方なく目を閉じる。小さい頃からの思い出が走馬灯のように思い出された。
生き物は大きな足で愛樂を踏みつけようとする。
「も、もう駄目だ……!お終いで―」
カキンッ!
ドサッ……
「!?」
愛樂は慌てて目を開ける。
見ると、敵は目を閉じて倒れていた。
「えっ、嘘!?私、生きてる……」
手を握ったりしてみる。心臓に手を当ててみる。異常は無い。
そこへ、
「大丈夫か?怪我は無いか?」
背後から男の声がした。
振り返ってみると、
銀色の目をした、青い髪の男が立っていた。
「怪我はありませんわ。ありがとうございました、助かりましたわ」
外見もなかなか好みだった。正直、顔がにやけそうな愛樂である。
「それは良かった。しかし、ラヴァーカを倒せないとは……もしや、君は旅の初心者か?」
「ええ。先ほど家の方を抜け出してきましたの。ソフィアの街の方へ行こうとしたら、怪物に襲われて……」
「なるほどな。まあ、無茶するんじゃないぞ?」
男はクールでありながらも、優しく微笑む。
「はいっ!あ、あの、お気をつけて!」
……何か大切なことを言おうとしたのに、思い出せなくなる。
この人のことがもっと知りたい。
「ああ。またどこかで会えたら会おう。強くなった姿を見たいものだな。それじゃ」
そんな愛樂の気持ちも知らない男は、鳥の羽のような物を使って瞬間移動してしまった。
「あっ、行ってしまいましたわ。それにしても私、何か聞き忘れたことがあるような……」
……
「あーーーーーっ!?名前聞くの忘れましたわ!もうっ、私の馬鹿馬鹿馬鹿ぁっ!」
愛樂の旅は、ここからだ。
うなだれながらも、愛樂はソフィアの街へ向かうのであった……