第12.5話・月姫の秘密
(ストーリー本編から少しだけ離れます)
月姫は月の国に住んでいたお姫様(名前の通りなのは置いておく)。そんな彼女が何故、愛樂達のいる世界に迷い込んでしまったのか……
現在の月の国を治めている女王には二人の娘がいる。いや、正確には『いた』。華月(かづき)と那月(なつき)という双子の娘だ。(華月が姉、那月は妹)
月の国では、女王が産んだ一番上の娘が次期女王と呼ばれる。だから、華月が次期女王様―つまり、『月姫』なのだ。
そう思われていた。
那月が月から追放される、その時までは。
幼い頃の華月は容姿が美しく、月の国の楽器―月光琴の扱いに長けていた。一方の那月も、容姿が美しいのは同じだったが……いくら練習を重ねても月光琴の腕前は上達しなかった。
ついには館(つまり彼女の自宅)を抜け出して、男子に混ざって武術を習うようになった。剣の扱いにも優れていたが、彼女が好み、最も熱心に練習した武器は槍だった。
槍は剣より重く、その分攻撃力がある。そこに惹かれて、那月は槍を用いるようになり……自ら槍を創造するようになった。
時は流れ、華月と那月は人間界でいう16歳の誕生日を迎えた。華月が女王の座を引き継ぐ日だ。
そんな日でも那月は槍の訓練に没頭していた。
「せいっ!はあぁっ!」
汗を流し、ふぅとため息をつく那月。周りの訓練生の男子達が彼女のもとに集まってくる。
「いやぁ、お前ってホントすげぇよな。俺達、剣を使うのだけでも疲れるのに……どんだけ力あるんだよ」
「あなた達が非力なのよ!もう少し体力つけて勝負しましょうよー、私はもう少し槍を振るのを練習するわ♪」
ケラケラと笑う那月。そこへ……
「那月、今日はあなたと私の16歳の誕生日でしょう?槍を練習するのはこの辺にして―」
華月がやって来
ブンッ
「家に―」
ザッ
「いっ……」
何かが切れる音がして、辺りに鮮血が飛び散った。
華月がその場に倒れる。
那月が目を見開き、手で口を覆い、華月のもとに駆け寄る。
「か、はっ……」
華月の目の焦点は合っておらず、体は段々と冷たくなっていった。
「い、嫌っ……やだ、やだ華月!死ぬなんて嘘っ!嘘でしょ!?」
必死に華月を揺らす那月。だが、もう華月は何も応じてはくれない。
「私は、たった一人の双子の姉を殺したんだ……私が、華月の人生を滅茶苦茶にしたんだ」
その後、那月にはいつもの笑顔など当然無く、自首をした。
罪を犯した那月は、華月の代わりに女王になれるはずもなく……人間界へと追放されてしまったのだ。
「那月。お前の犯した罪はとても重い。だが、女王様の娘である以上、いずれは女王とならねばならない。人間界で罪を償う……とは言えまいが、しばらく学べ。今のままではお前は女王になる資格はない。しかし、次期女王ということに代わりはない故にお前に『月姫』と名乗ることを許そう。行け、月姫」
こうして、月姫は自ら犯した罪を償うために人間界へと降り立ったのだ。