第13話・山の中腹にて
夜になった。戦い疲れたのか、月姫は地面の上でだらしのない格好で寝ている。これでも王女か。
幼女の方はトレーニングし足りないようで、山の下腹部まで降りて戦闘をしているようだ。
愛樂は手際良くテントを張るなど、野宿の準備をしている。
「おーい、月姫。こんな格好だと風邪引くぞ……む、起きないか」
守は月姫に体勢を変えて寝てもらうため、熱心に彼女を起こそうとしているが、難しいようだ。
「まあ、守。それでは駄目ですのよ。月姫はこう……」
月姫の間近でしゃがみこむ愛樂。そして、寝転がる彼女の無防備な顔の真ん中を……
フニッ
「フンガッ!」
摘んでみた。鼻を摘んだのだ。
「ブフッ……これじゃお姫様どころかまるで家畜―」
「まも?何か言った……?」ゴゴゴゴゴ…
怪訝な顔で月姫が起き上がる。とても迷惑そうな顔だ。
「……いや、何でもないんだ、忘れてくれ」
「んっふっふっふ♪愉快ですわねぇ」
↑ある意味一番恐ろしいのは愛樂なのでは?
愛樂により強引に起こされた月姫は、何とか体勢を変えて無事に大殿籠もってくれた。
月姫が眠ったのを確認して、彼女のそばを離れようとした愛樂。
何かに気づいた。
「!」
ポケットの中に何か入っている……
「クッキー……」
そう、プレゼント対決の際に守がくれたクッキーだ。
タイミング良く守が声をかけてきた。
「お、食べるのか?」
「ええ。いただいてもよろしくて?」
「ああ。少し不格好になってしまっているかもしれないが、食べてくれると嬉しい……」ゴニョゴニョ
照れている。そんな守をよそに、包みからクッキーを一個取り出す愛樂。
ボリッ
「ん……」モグモグ
「ど、どうだ……?」
一瞬、顔を歪ませる愛樂。嫌な予感がする守。
「ふふ、守。砂糖と塩を間違えましたわね?」
幸いにも、お嬢様は優しく微笑んでくれた。エメラルド色の瞳の奥には綺麗な星々も映っている。
「ひっ!?そ、そうか……全く気が付かなかった、すまない」
「いいえ、謝る必要などありませんわ。むしろ嬉しかったですもの。あなたが私のために心を込めて作ってくれたのでしょう?」
「あ、ああ……今度はちゃんと間違えないように作るからな」
「うふふ、ありがとうございます♪あ、でも折角ですから今度はリバイタでも作ってくださいませんこと?」
愛樂は笑顔で言ったのに対し……この男は
「!つ、つまりあのチャラ男と仲良くして作り方を請えと!?そんなことは俺のプライドが……ああっ」
全力で嫌がっている。そんな彼をよそに愛樂も寝る支度を始めてしまった。
(実はクッキーを作るのも人生で初だったというのに……俺はこのお嬢様に振り回されてばかりなんだなぁ)
守は愛樂の後ろ姿を見て、優しく微笑んだ。
「朝起きて隣に俺が寝ていたら、びっくりするかな?」
腕組みをしてしばらく考え込む守。
その姿を、彼女は目撃していた……
「ようようようようお兄さん、何を企んでいるのかなー?」
棒読みしているが、怪しく薄笑いを見せながら彼女はこっちに歩み寄ってくる。
「チビ―むごぉっ!?」
「チビ言うな。全く……バレバレなんですよ。愛樂お姉さんのことが好きなのでしょう?」
「んなっ!?このオラがおなごに恋したとでも言うべか!?」
「ブフォッ……!その口調で確信しましたね、はい」
ジャジャーン!!幼女、アウトー!
「ーっ!こ、子供はもうとっくに寝ている時間だぞ!こんな夜遅くまで何をしていた!?」
「……まもさんが言ったんじゃないですか、トレーニングして来ていいって」
「ぐぬぅ、そうだったような気がしなくもないんだ。悔しいですっ!」
(まも兄……こいつもネタ要員だったか……)
「はあ。最初から素直に認めればいいんですよ。どうして近頃の若い男はこうもプライドが高いんでしょうか?」
「いや……お前何年生きてんだよ。っていうか早く寝ろマジで!健康に悪いし」
「ならばお言葉に甘えますが……」
物語が少し進展しそうなニオイ!
どうなる守!?